独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターとは
独立行政法人国立機構 久里浜医療センター(以下、久里浜医療センター)は、1963年に日本で初めてのアルコール依存症専門病棟として設立し、1988年にはWHO(世界保健機関)から日本で唯一のアルコール関連問題の研究・研修協力施設として指定されるなど、日本を代表するアルコール関連の専門医療機関です。
創設当初から現在に至るまでアルコール依存症の専門治療を行うことはもとより、その他各種依存症やうつ病、統合失調症などの精神疾患に幅広く対応できるようになりました。特に2017年4月から、従来の断酒的な側面を持つ治療に対し、お酒の摂取量の減少に重きを置いた「減酒外来」を始めました。
久里浜医療センターの治療について
それでは、久里浜医療センターがどのような治療を行っているのかについて具体的にみてみましょう。久里浜医療センターの中でも有名とされているのが「久里浜方式」と呼ばれているもので、長期間にわたる入院を原則とした集団精神療法及び教育を実装した治療法として患者の自主性を重んじることから全国各地へと広がりを見せました。その後、認知行動療法(CBT)を基にした久里浜式CBTという治療法を確立し、以降現在までアルコール依存症治療の第一人者として活躍してきました。
DTxとの関わり―減酒支援アプリ
上記で説明したように久里浜医療センターはアルコール依存症の専門機関として依存症治療の第一線で活躍してきましたが、実はDTxとの関わりも持っています。具体的にどのような関わりを持っているのかについて説明します。
株式会社CureAppとの提携
2020年6月11日、久里浜医療センターは、DTxの国内リーディングカンパニーである株式会社CureApp(以下、CureApp)との提携により、デジタル治療アプリを通した減酒支援に取り組むことを発表しました。既にCureAppは減酒支援アプリの併用を前提としたオンラインカウンセリングプログラムを開発しており、多量飲酒への心理的な支援を行っています。そして今回の減酒支援ソリューションはCureAppの他のソリューションと同様、認知行動療法を基にした治療方法となっています。
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プログラム及び臨床研究の概要
今回開発したオンライン減酒カウンセリングプログラムは、1日の平均純アルコール摂取量※が60gを超える多量飲酒者(男性60g以上/日、女性40g+/日の純アルコール摂取)を対象としており、認知行動療法をベースとした心理的な支援を目的としています。具体的には、ユーザーがアプリを通して自身の飲酒習慣を振り返り、多量飲酒の原因となる状況やその時の感情、考え方に意識を向け、行動を徐々に変容していくといったものになっています。
そして今回実施される臨床研究では、2020年6月から15名を対象に8週間、アプリの利用とオンラインでのカウンセリング(4回)を併用し、多量飲酒日を減らすことができるかを検証するという内容になっています。
※純アルコール摂取量(g)=アルコール量(ml)×アルコール度数×0.8(アルコール比重)
臨床研究の背景
今回の臨床研究の背景には、国内外において切迫した問題であるとされるアルコール依存症及びそれに準ずる多量飲酒を解決するためのアプリケーションを開発する上でのエビデンスを創出するという目的が予想されます。というのも、現在の日本では多量飲酒に該当する人数に対して適切な処置を受けている人々の割合が少なく、多くの人々が飲酒によって健康に害をきたしている状況にあるからです。
2013年にアルコール関連問題の実態について全国調査が実施され、アルコール依存症の疑いがある患者が112万人、生活習慣病のリスクを高める量(一日当たりの純アルコール摂取量が男性では40g、女性20g)のアルコールを摂取している多量飲酒者は1036万人と推定されました。それにもかかわらず、減酒や断酒などの治療を受けている患者数は約4万人~6万人となっており、該当する患者のほとんどが治療を受けていないことが分かります。またコストの面でも労働損失が約2兆5千億円、医療費が約4千億円など全体で3兆7千億円に上ると報告されており、多量飲酒は社会的な問題であることが分かります。
今後の展開
現在、アルコール依存症とまではいかずとも、依存症予備軍として多量飲酒をしている人口は年々増加傾向にあり、先述したように多量飲酒による健康被害、そして経済損失は社会的な問題になっています。そのような状況下で今回発表された減酒支援をするようなアプリケーションの有用性は非常に高いことが分かります。特にDTxにおけるリーディングカンパニーCureAppと、アルコール依存症の第一人者であり国内で唯一の専門医療機関である久里浜医療センターとの協業は日本国内におけるアルコール依存症及びそれに準ずる多量飲酒の解決へとつながるのではないでしょうか。アプリケーションによる減酒支援は今後の飲酒問題をどのように解決していくのか、引き続き動向に注目しましょう。