知財戦略の観点から見るDTx

はじめに

知財とは

 知財とは、“知的財産“の略称で、人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物など、財産的な価値を持つものを指します。知財の中でも法律上保護される権利のことを知的財産権と呼びますが、その種類は様々です。そしてこの記事では、特許庁に登録することで効力を発揮する「特許権」と「実用新案権」、「商標権」、「意匠権」の4つにフォーカスして説明します。

DTxとは

 DTx(デジタルセラピューティクス)とは、エビデンスに基づき臨床研究されたソフトウェアを用いて患者に直接的な医療介入を行い、疾病の予防や診断、治療を行うデジタル治療アプリのことを指します。

↓↓↓DTxとは何かについて詳しく解説している記事もご覧ください

知財とDTxとの関係

 では、知財とDTxとの間にはどのような関係があるのでしょうか。近年、ビジネスにおける知財の活用はもはや必須といっても過言ではないほど経営戦略にとって重要なものとなっています。とりわけDTxの市場はまだ成熟しておらず、他の業界と比べたときに知的財産権の出願件数の少なさや、出願特許産業分布における分類で『その他の産業』として分類されていることから見るに、いかにDTx分野の新規独自性が高いかが分かります

こうした市場が未発達のうちに知財戦略をもって挑めば、市場全体の参入障壁を高くし、後発の協業企業に後れを取らせることも、また市場を独占することも可能となります。即ち、DTxの市場が成熟していない今だからこそ、知財に目線を向けることでビジネスの確度がぐっと高まることは間違いありません。では、具体的にDTx企業がどのような知財戦略を行っているのか、先述した4つの知的財産権の観点から見てみましょう。

自社製品を守りつつ、概念を普及させる

 知財の活用方法としてまず挙げられるのが、自社製品の保全と普及です。商標権を例にとって説明すると、先行企業が自社製品に関する商標権をひとたび取得してしまえば後発企業はその商標をつかうことができないか、もしくは商標権を取得した企業が許諾した場合において一定のロイヤリティを支払うことでのみ、その商標を使用することができます。

こうして先行企業が商標権を取得することで自社製品の保全を図ることができます。また、自社製品を市場にローンチする際、あらかじめ登録されている商標と抵触していないかを確認する作業が必ず存在しますが、その際、出願しようとしていた商標が既に登録されていた場合、既に出願していた企業への認知が高まります。

具体的に株式会社CureApp(以下、CureApp)が出願及び登録している商標権を例にとって詳しく説明します。

株式会社CureAppが出願した商標権「治療アプリ」

 株式会社CureAppは国内で初めてDTxとして承認された禁煙治療アプリを開発した企業として有名ですが、製品を開発するにあたり様々な特許を出願しています。特許・実用新案権については14件(うち5件が登録)、商標権については27件登録されています。

引用元:https://search.tokkyo.ai/tmk/TRMK_TG_JPT_2016008_5821421_5821422

中でも商標権として10類にて『治療アプリ』という商標を2015年8月19日に出願番号JPT2015079605として出願し、2016年1月22日には登録番号JPT5821422として登録されています。この商標を背景も交えて詳しく見てみると、『DTx』という概念自体が全くと言っていいほど普及していなかった2015年当時においてDTxへの可能性を見出し、先行企業として『治療アプリ』の商標権を取得することで後発企業からのロイヤリティの取得、そして日本国内におけるDTxの第一人者としての認知を高めることに成功したことが分かります。実際に、後発企業が日本国内でDTxを開発する際、『治療アプリ』という普遍的な言葉はなかなか避けて通ることができるものではなく、ロイヤリティを支払って開発を進めるか、そもそも参入することができないか、そして全く別の言葉を使うかの3択となってしまいます。

参入障壁を高くし、市場のデファクトを取る

 先述したように、特許を出願することによって自社製品を守っていくことはもちろん重要なことですが、出願した特許を活用して市場のデファクトを取っていくことも知財戦略を行ううえで非常に重要なことになってきます。例えば、DTxの市場はまだ成熟しておらず成長段階にあるため、先行企業が特定の疾患に対するソリューションを開発した際、その開発方法の根幹となる部分の特許を取得してしまえば、後発企業はその根幹となる方法で開発を進めなければならなくなり、参入障壁がぐっと上がります。それが他の企業でも繰り返され、先行企業が取得した特許の方法で開発が進められると必然的に市場のデファクトとなり、先行企業が市場の上流を独占することができます。こちらについてもまた、CureAppが取得している特許を例に説明します。

CureAppが出願した特許権「禁煙患者のためのプログラム、装置、システム及び方法」

引用元:https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2017545780?kw=AP%253D%5B516305053%5D%252BRG%253D%5B516305053%5D&type=PTUT&page=1&listSize=30

CureAppは特許権として、分類コードG16H10/00 (2018.01)にて『禁煙患者のためのプログラム、装置、システム及び方法』という特許(特許番号:JP6339298)を2017年4月20日に出願番号JP2017545780として出願し、2018年5月18日には公開番号WO2018193592として国際公開されています。この特許から分析できることとしては、禁煙治療に関するプログラムを特許として権利取得することで禁煙治療市場の参入障壁を高くし、後発企業に後れを取らせることで市場での先行者利益の獲得を図っていることが挙げられます。

例えば後発の企業が開発したものが薬事承認をクリアできるほどの技術をもっていたとしても、先行しているCureAppが出願した特許に触れないようにする必要があるため研究開発を違う方法でやる必要があり、さらに時間がかかってしまいます。仮にロイヤリティを支払い、CureAppが定めるシステムで開発を進めたとしてもそれが基準となり、他の後発企業もそのシステムを使用すれば必然的に市場のデファクトとなります。

↓↓↓上記で取り上げた株式会社CureAppについてはこちらをご覧ください

まとめ・今後の展開 

 以上ここまで説明した通り、市場がまだ成熟していないDTx分野において知財を活用していくことがいかに重要であるか、お分かりいただけたかと思います。DTxを開発してから上市するまでにあたり、医療機器として薬事承認をいかにクリアするかが重要視されがちですが、それと同様に非常に重要になってくるのが知財を活用し製品の上市後の展開までをも見据えた製品開発を行うことです。これまで以上にビジネスにおける知財の活用が重要になってくる現代において、とりわけ今後成長可能性の見込みが高いDTx分野でどのような知財活用戦略が行われるか引き続き注目しましょう。


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