On comfort―薬を使わないデジタル鎮静剤

 2017年に設立し、ベルギーのブラバン・ワロン州の州都ワーフェルに本社を置くOn comfort社は、DTxを用いて患者の痛みや不安を取り除くソリューションを提供しています。

On comfortの事業内容

鎮静剤の代替ソリューション「DigitalSedation™」の開発

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=ZqLeQWCsQF8&t=129s

 DigitalSedation™ は、投薬なしで、医療処置の前、最中、および後に患者の痛みと不安を取り除く、安全で効果的なデジタル療法です。どうしてデジタル治療アプリで痛みが取り除けるのか、不思議に思われる方も多いと思いますので軽く仕組みを紹介したいと思います。

デジタル鎮静剤「DigitalSedation™」は以下の三つを柱として成り立っています。

患者を解離状態に導く臨床的催眠療法

 ベルギーのゲント大学やルーベン大学などとの共同研究から導き出された臨床的なエビデンスを基にしたテクニックを使い、患者を催眠状態に誘導して意識をコントロールし、周囲の環境や痛みに注意が向かないようにします。

統合的治療技術

 マインドフルネスベースのストレス低減(MBSR)、暴露療法(ET)、認知行動療法(CBT)など複数の治療アプローチを含むプログラムで、患者の不安や痛みを効果的に和らげます。

没入型VR

 大人も子供にも適した没入型メディアで、持ち運びにも便利です。普通医者と二人きりで行われる臨床的催眠療法は患者のテクニックも必要で少々難しい面がありますが、没入型VRはヘッドセットによりユーザーの視覚・聴覚を完全に掌握するためこのハードルを限りなく下げてくれます。

 以上のように、このアプリはDTxとしてきちんと効果があるもので、また人の手を必要とせず医療費の削減にもつながることから使用が広がり、現在世界の100以上の病院で75000人以上に使われています。

創業の経緯

 On comfort社は、会社の共同創設者の1人であるダイアン・ジョリス氏の個人的な経験を背景として生まれました。彼女には乳がんで苦しむ姉がいて、その介護をしていました。その中で姉が痛みと不安で充実した生活を送れていないことに心を痛め、どうにかして解決策を見つけようと思い立ったのが創業のきっかけです。

 試行錯誤の結果、ジョリス氏はMDアンダーソンがんセンターでの催眠療法の専門知識と新しいテクノロジーであるバーチャルリアリティを組み合わせることで、ソリューションを提供できるのではないかというアイデアに辿り着き、共同パートナーとともにDigitalSedation™を完成させました。

 この背景からジョリス氏は、効率的で科学的根拠に基づく非薬理学的なソリューション「DigitalSedation™」をできるだけ多くの患者がアクセスできるようにし、患者の痛みや不安を和らげることにキャリアを捧げることに心を決めました。

今後の展開

 2021年にOncomfort社は、認証会社DAREの下でISO 13485:2016認証を取得したことを発表しました。ISO 13485は、医療機器産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格です。日本を含む世界各国の医療機器に関する規制において、品質管理手法のベースとして採用されています。

 DigitalSedation™は現在利用者が8万人程度ですが、この認証がさらなる同製品の普及の後押しになることは間違いないでしょう。これからの展開に期待です。


関連記事