日本と海外のDTx現状徹底比較

「デジタルセラピューティクス(DTx:Digital Therapeutics)」は、「デジタル治療」と呼ばれ、最新のデジタル技術を用いた医療行為を支援、実行するサービスです。

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2010年に米国のWellDoc社が「Bluestar」という二型糖尿病患者向けの治療補助アプリを開発し、FDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬局)の承認を得たことで、世界初のDTx製品が登場しました。さらに米国では2017年に、DTxの業界団体である「Digital Therapeutics Alliance」が発足したことで、米国を中心としてDTxの概念が確立してきました。

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日本及び海外のDTx現状比較

日本と海外、とりわけアメリカ、ヨーロッパとのDTx浸透率には圧倒的な差があります。そもそもDTx製品を販売するには、医療的な効果のエビデンスを必要とし、それをもとに各国の規制当局から承認を受ける必要があります。
2021年時点で承認された製品はアメリカで23、欧州で21個であるのに対し、日本では一つのみとなっており、承認プロセスの違いがこうしたDTx推進の格差になっていると考えられています。

承認ガイドラインの柔軟性

日本ではDTx製品の承認における各種ガイドライン、ガイダンスは限定され、デジタル医療に特化した承認スキームは存在せず、従来の医療機器と同じ審査方法で実施しているのに対し、アメリカでは、デジタル医療において単体で医療機器として機能するソフトウェアを従来の医療機器と明確に区別し、新たに設定された基準で評価しています。

さらにイギリスでは、国立医療技術評価機構(NICE)がより多くの情報に基づいて一貫した意思決定で提供されることを目指し、必要なエビデンスレベルを「有効性」「経済的インパクト」の両面から定義しています。さらにそのガイドラインを細かく分類し、医療技術の評価基準を確立させる取り組みが進んでいます。

承認プロセスの迅速性

承認プロセスの迅速性の改善における各国の取り組みを見てみましょう。

アメリカでは、事前承認制度(Precertification Program)という制度があり、製品そのものではなく、開発企業に対して、その企業が自社製品の品質に対して組織的な卓越性を有し、かつ製品の上市後も性能に責任をもって監視している場合、当該企業の製品に対しより迅速で効率的な規制監視を行うことができ、迅速な承認プロセスが実現されています。

さらにドイツでは、治療用アプリの従来に比べ簡易で迅速な手続きを可能とする制度(Fast Track制度)を採用しており、登録要件を満たせば申請から三か月以内に処方可能な治療用アプリとして国のデータベースに登録され、保険も適用します。

一方日本では承認プロセスにおいてIDATEN制度という制度が定められ、恒常的な性能が変化し改良が見込まれる医療機器について承認事項の一部の変更を認める体制をとっており、柔軟性はあるもののやはり承認申請の段階で時間がかかってしまうのが現状です。

アメリカに比べ日本でDTxが浸透しなかった背景

このような規制の違いによって、DTxの浸透率に違いが出たことはわかりましたが、ではそうした制度に落ち着いた根本の原因はどういったところにあるのでしょうか。ここでは日本とアメリカの背景を比較して考えます。

アメリカは日本に比べ健康保険制度が充実してない為、医療費が高額であることはご存じでしょうか。DTxによる治療サポートにより、医師との診察回数や薬の量が減れば、従来の医療よりも医療費を抑えられるということです。そのため、医療費を負担する個人、保険会社、企業はDTxを積極的に採用しようとし、急速に展開が進んでいきました。

一方、日本では健康保険制度が充実しており、比較的医療費や効率に対する危機感は薄く、DTxの必要性が重視されづらかったことが、DTxが浸透してこなかった理由の一つになります。
しかしながら日本の健康保険制度も破綻寸前といわれるくらい日本の国家予算を圧迫しています。この健康保険制度を永続させるためには医療費の削減が重要な課題であり、早急に改善していく必要があります。

日本が今後世界をリードするために

莫大な国家予算を医療費に充てている日本ですが、そのような状況を打破し、デジタル医療により費用削減、効率化を目指し世界を牽引する存在になるためにはどのような施策が考えられるでしょうか。

第一に、従来の医療機器や薬とは異なるデジタル医療に適した評価体系の確立が必要になってくるでしょう。承認の際の審査基準だけでなく、価格や保険適用の基準に関する仕組みを作っていくべきだと考えられます。
次に、薬事承認や保険償還におけるプロセスをより迅速に進めることが必要となるでしょう。何かしらの制約をつけた上での承認を導入するといったアイデアを活かし、数か月で承認を完了する必要があります。

さらにDTx分野で世界をリードするためには、日本の持つ強みを生かしたテーマが有効となります。日本の場合、世界有数の超高齢化社会であるので、患者が増加し続けている生活習慣病の領域に注力するといった対策が有効になるでしょう。さらに日本の医療制度の大きな特徴の一つに国民皆保険があります。それにより一度治療用アプリとして保険償還されると全国民が使用することができ、連続的な患者データを蓄積することができます。それを民間が活用することで、臨床研究の推進や医療機器のマーケティングの促進が期待されます。

このように、日本の医療制度の特徴を生かした領域に注力し、審査基準の確立、承認の迅速化を中心に改善できるかどうかが、日本がDTx分野において世界を牽引できるかどうかの鍵となるでしょう。


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