インスリン投与量の最適化を行う処方箋型DTx『Insulia』

『Insulia』とは

 『Insulia』は、フランスのVoluntis社が開発したⅡ型糖尿病患者向けのDTxで、クラスⅡ医療機器としてFDAより承認を受けています。同製品は医療従事者が作成した治療計画に応じて個々の患者に最適化されたインスリン投与の管理及びサジェストを行います。また、同製品は医療従事者の処方箋を必要とする、いわゆる処方箋型DTxです。

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糖尿病の種類とメカニズム

 今回紹介するInsuliaは他のDTxと異なるアプローチをしていることから、Ⅰ型及びⅡ型糖尿病のメカニズムを理解しておく必要があります。

糖尿病とは、血糖値を下げる役割を持つインスリンの不足から生じる病気です。その種類には、Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病が存在し、Ⅰ型糖尿病は自己免疫疾患などが原因でインスリン分泌細胞が破壊されるもので、インスリンの自己注射が必要となります。一方Ⅱ型糖尿病は、インスリン非依存型と呼ばれ、遺伝要因に過食や運動不足などの生活習慣が重なって発症します。しかし中には、生活習慣の管理だけでは血糖値をコントロールすることができない場合があり、その際にはⅠ型糖尿病と同様にインスリンを自己注射する必要があります

製品概要・特徴

 Insuliaは、成人のⅡ型糖尿病患者向けのDTxで、特に生活習慣の改善だけでは血糖値を保つことが難しく、インスリンの自己注射を必要としている患者を対象としています。そのため、生活習慣の改善を目的とする他のⅡ型糖尿病患者向けのDTxと異なり、インスリンの投与量を調節することに重きを置いているのが同製品の一つの特徴となっています。具体的には、Lantus®, Levemir®, Toujeo®, Tresiba® (U-100),そして Basaglar®といった基礎インスリンを投与している患者が、『どのタイミングで、どのくらいの量を投与すればよいか』を管理及びサジェストしてくれる機能を備えています。この機能は特に、日々の血糖値やインスリン投与量の管理を基にしており、個人に最適化されたものとなっています

引用元:https://www.youtube.com/channel/UCVQqcBW-VqLhRGYq2vx8P2w/videos

この製品が開発された背景には、糖尿病患者がインスリンを投与する際に、どの程度の量をどのタイミングで投与するのが最適かを知らないといったことが挙げられます。従来の対面診療では医療従事者の指示に従ってインスリンを投与しますが、それは診察に来るまでのデータを基に医療従事者が判断しているものであって、日々の生活スタイルをはじめとする個々の患者に最適化されたものではありません。一方、同製品は日々の生活習慣や血糖値などリアルタイムのデータを基にいつ、どのタイミングでインスリンを投与するのがベストであるかを個別に最適化し、導き出してくれるのです。

医療従事者への機能

 医療従事者はダッシュボードを通じて、患者のインスリン投与状況を遠隔でモニタリングすることができ、症状の進捗状況を分析することで更なる治療計画の向上に努めることができます。また、アプリケーションを通じて患者に直接コーチングすることが可能となっており、特に注意が必要な患者を自動的にトリアージしてくれる機能を通して優先的に治療が必要な患者を診察及びコーチングすることができます。

医学的有効性の検証

 同製品の医学的有効性については、無作為化比較試験で検証されており、有意の結果がもたらされたことが報告されています。実際にEUにおいてはGmedによるCEマーク認定(クラスⅡb)を、アメリカにおいてはクラスⅡ医療機器としてFDAの認可を、そしてカナダにおいては保健省が交付するMDL(クラスⅡ)を受けているなど、各国において医療機器としての承認を受けています。特に、処方箋に基づくデジタル治療薬として初めて、基礎インスリン滴定のFDA認可を取得しました

191名の糖尿病患者を対象としたRCT (Randomized Controlled Trial)

Voluntis社は、Ⅱ型糖尿病患者における基礎インスリン投与開始時の血糖コントロール改善に対する遠隔モニタリングシステムの有効性を実証するために、合計191名を対象とし13か月間にわたる無作為化比較試験を行いました。被験者を第1群~第3群までランダムで割り付け、その結果を比較検討したところ、4ヵ月後のHbA1c低下率は遠隔モニタリング群で有意に高かったという結果になりました。(G2: -1.44%, G3: -1.48% vs. G1: -0.92%; P < 0.002)

まとめ・今後の展開

 同社は2017年にAscensia Diabetes Careと提携を結びました。この提携により、InsuliaとAscensiaのCONTOUR(R)NEXT ONEおよびCONTOUR(R)PLUS ONE血糖モニター・システム(BGMS)がコラボレーションすることとなりました。他のⅡ型糖尿病患者向けのDTxとは異なり、インスリン投与に着目し差別化を図るInsuliaですが、今回の提携をきっかけとして今後どのように世界各国へとソリューションを展開していくのか、今後の動向に注目です。


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