心不全の「デジタル治療」でFDA承認を目指す『BiovitalsHF』

ボストンを拠点に置くBiofourmis社のBiovitalsHFは、心不全の投薬モニタリングのためのプラットフォームとして、FDAから初のブレークスルーデバイス指定を受けました。それによりFDAの認定を得られるわけではありませんが、医療機器の審査プロセスが迅速化し、 認定取得に向け政府からの支援を受けられるようになります。

biovitals on phy
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心不全治療の実態

心不全の治療において、医師は複数の薬剤を処方することが多く、また患者が自宅に戻ってから時間の経過とともに投与量を調整する必要があります。特にACE阻害剤とβ遮断剤の2種類の薬の場合は、漸増、つまり患者が低用量で治療を開始し、時間をかけてゆっくりと用量を増やし、最適な「目標」用量を達成するプロセスで投与を続けます。

しかし、患者がそうしたプロセスを実生活で続けるのは困難です。研究機関によると、患者にとって最適な投与量が達成されているのは心不全患者全体の25%にも満たないということが示唆されています。さらに他の研究では1%以下という結果が出ているものもあります。

そこでAIを活用して心不全治療薬の投与量を管理できるシステムが存在すれば、こうした問題が解決できるのではないかという発想で現在開発が進められているのがこのBiovitalsHFです。

BiovitalsHFの主な機能

BiovitalsHFは、ウェアラブルデバイス(手首や頭に装着するデバイス)からデータを収集、解析することで、患者が自宅での服薬プロセスを効率化することを目的としています。

ウェアラブルデバイスが心拍数、呼吸数、ストローク数、心拍出量などのデータを収集し、自動で投与量を調整します。その一方で患者が自分の症状をアプリに報告し、医師は審査結果を入力すると、データ取集を行うことが可能となります。

BiovitalsHFの優位性

同製品の機能のコアとなっている技術は、ウェアラブルデバイスから取得できる生体データや、病歴、投薬状況、副作用、検査データ(体内の物質)などの複合的なデータを一括して解析するAIです。このAIにより自動的に増量や減量、薬の切り替えを行い、患者が適切な方法で最適な量を服用することを可能とします。

BiovitalsHFプログラムはまだ実証試験が一度しか行われていませんが、他の疾患においてBiovitalsシステムを用いた患者モニタリングがテストされています。Scientific Reportsに掲載された論文によると、Biovitalsシステムが採用された新型コロナウイルス患者のモニタリングは、患者が悪化するかどうかを93%の精度で予測し、入院期間を78%の精度で予測することができたといいます。

今後の展開

Biofourmis社はシリーズCの資金調達を2020年に実施しており、約1億4500万ドル(約159 億円)の資金を調達し、約350人の従業員を抱えているといいます。

近年、デジタル治療に携わるベンチャーは様々な企業が増えてきていますが、生体データや医療データ等を総合的に解析するソフトウェアを用いて、投与をモニタリング、調整する技術を開発する企業は多くありません。

FDA認定を目指して臨床研究を進める同社ですが、米国での実用化が可能になるのか、今後の動向に注目しましょう。


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