はじめに
DTx とは
「DTx(デジタルセラピューティクス:Digital Therapeutics)」とは、エビデンスに基づき臨床研究されたソフトウェアを用いて患者に直接的な医療介入を行い、疾病の予防や診断、治療を行うデジタル治療アプリのことを指します。
↓↓↓DTx とは何かについて詳しく解説している記事もご覧ください
ドイツの医療
ドイツの医療水準は非常に高く、また緊急医療体制も整備されています。
ドイツでは家庭医を持つ文化が普及しており、患者それぞれにあった医療が効率的に提供されています。他の多くの国では急患を受け入れる体制が整っていないのに対して、患者は一年中 24 時間いつでも医師にアクセスできる環境にあり、開業医は救急研修及び救急業務を義務付けられているため、質の高い緊急医療を迅速に受けることが出来ます。
また同国は世界最古の国営社会保険医療制度を持ち、日本はドイツをロールモデルとして医学教育を長らく行ってきました。現在は医学界において戦前ほどの権威を持つことは無くなりましたが、今でも国内の医療機器メーカーは世界的に精度が高いことで有名で、また日本と同じように公的医療が充実しています。
ドイツの DTx に関する医療制度
デジタルヘルスケア法(DVG)
ドイツ連邦議会は 2019 年 12 月、デジタルヘルスケアによる医療の向上について様々な施策を執り行うことを決めた「デジタルヘルスケア法(Digitale Versorgung Gesetz:以下、DVG)」を施行しました。以下の図は DVG の中でまとめられている、ドイツ国内のデジタルヘルスについての現状や今後の目標、そしてそれに伴う方針です。ここから見て取れるように、ドイツではデジタルヘルスケアを推進することによってさらなる医療の発展を図っています。
DTxの保険償還
DVG ではデジタルヘルスの推進について事細かく記述されていますが、中でも特筆すべき点は DTx の保険償還制度についてです。
他国同様、DTx は国からの薬事承認を受けて国内での製造販売及び処方を許可されますが、DVG ではそれに加え、保険償還によって処方された DTx については患者の費用負担が 0 であるということが定められています。(年あたりの上限あり)それゆえ、国内でのDTx 使用が促進されるのです。
DiGA ディレクトリ
そして薬事承認・保険償還が認められるためには「BfArM(連邦医薬品医薬機器研究所)」が管理する「DiGA ディレクトリ」(DiGA は日本語でデジタルヘルスケアアプリ)という、いわゆる「国が認めた DTx リスト」に追加される必要があります。
「DiGA ディレクトリ」に追加されるには「BfArM(連邦医薬品医薬機器研究所)」の出している「DiGAV(DiGA の登録に必要な一般的な要件)」と「ポジティブ・ケア・エフェクト(実際に運用した際の良好な医療効果)」を満たす必要があります。 DiGAV には安全性や使用適正などほかの医療機器と同様に臨床的な判断基準に加え、データ保護など DTx 特有の基準も含まれます。
Fast Track 制度・暫定追加制度
ドイツでは DTx 業界の加速化のために、Fast Track 制度という申請から三か月以内にDTx が承認される制度と、DiGAV を満たしていれば実際に運用された実績がなくてもDiGA ディレクトリに暫定的に追加できる暫定追加制度が DVG と同じ 2019 年 12 月から施行されました。
暫定追加された DTx は最長 1 年以内に十分な医療効果を発揮できれば DiGA ディレクトリに永久に収容されることを認められ、逆にその有効性を証明できなければディレクトリから削除されます。
この二つと同じような制度は他の国には見られず、これらの制度によりドイツでは十分な質を確保した上で迅速な DTx の提供が可能となります。
DiGA ディレクトリに含まれる DTx
2022 年 5 月 31 日現在 DiGA ディレクトリへの収容を永久承認されている DTx は以下の表の通りです。
アメリカでも展開をしている GAIA AG 社と独ロイファナ大のプロジェクトであるGET.ON 社の DTx が 12 個中それぞれ 4 個、永久承認ディレクトリに収容されている形となっています。
↓↓↓Kalmeda について説明した記事もご覧ください。
今後ドイツは DTx 業界でどういう立ち位置になるのか
現在、ドイツにおいて少子高齢化による医師不足、慢性患者の増加は深刻な日本と同様深刻な社会問題となっています。
そんな状況下で政府が打ち出した「DVG」や「DiGA ディレクトリ制度」などの先駆的な制度は DTx 関連のスタートアップの加速化、最低限の質を確保したデジタル医療の迅速な提供を可能にしました。
今後成長していく DTx 市場において、ドイツがアメリカに追随する存在となり、欧州において一歩リードした存在になっていくことは大いに期待され、また戦前の日本と同じようにドイツをロールモデルとして DTx 関連の制度を整備する国も出てくるだろうと予想されます。
↓↓↓日本と海外の DTx を比較した記事もご覧ください