『reSET-O』とは
reSET-Oは米Pear Therapeutics社が開発したDTxで、麻薬性鎮痛剤”オピオイド”を処方された容量よりも多く使用したり痛みがなくなったにも関わらず使用し続けたりしてしまう精神疾患、『オピオイド使用障害(OUD)』を患っている人々を対象としています。DTxの中でも厳しい基準をクリアした処方箋型デジタル治療アプリ(PDT)※として、世界で初めてBreakthrough Device Designationを取得しました。
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仕組み
同製品は臨床医のもとで外来治療を受けている18歳以上の患者を対象としており、12週間にわたって経口ブプレノルフィンを用いた外来治療の補助として使用することで、OUD患者の来院定着率を高めます。同製品は特に認知行動療法という、物事をどのように捉え(認知)、それに対して行動変容を促すことで治療していくという治療法を活用しています。
具体的には、まず日々の生活の中でオピオイドを摂取したいという欲求やそれを誘因するもの、そして実際に摂取した際の状況について記録を取ります。こうすることで普段自分がどのような状況下でどのくらいのオピオイドを使用しているかを客観的に把握することができます。(=認知) 次に日々提示されるレッスンや各種クイズを通してオピオイド使用障害に関する知識を付け、行動変容を促します。これを日々繰り返すことで経口ブプレノルフィンを用いた外来治療への定着率を高めていきます。
※PDT(Prescription Digital Therapeutics)…DTxの中でもRCT(無作為化比較試験)で安全性と有効性を検証しなければならないなどの厳しい基準をクリアしており、かつ医者の処方を必要とするアプリケーションのことを指します。
reSET-Oの優位性
医学的効果
同製品は、FDAから医療機器として承認されており、医学的エビデンスに基づく医学的効果が実証されています。実際にブプレノルフィンを用いた外来治療にreSET-Oを追加することで、OUD患者の来院定着率が約15%向上したという報告がされています。
医師への情報共有
reSET-Oは臨床医や他の医療従事者向けが患者の治療や進捗状況を把握するためのダッシュボードを提供しています。ダッシュボードには、完了したレッスン、患者が報告した薬物使用、患者が報告した欲求や誘因、患者が報告した薬物使用、コンプライアンス報酬、尿薬物スクリーニング結果などの診療所内でのデータ入力など、患者のreSET-Oの使用に関する情報が表示されます。
アクセシビリティの高さ
reSETは24時間いつでも、どこでもアクセスすることが可能となっています。従来の来院型のみの治療では、病院に来院した時でしか医師が患者の行動に介入することはできませんでしたが、同製品を使うことで時間場所関係なく治療をすることができます。
reSET-Oを使用するにあたっての注意点
reSET-Oはあくまで臨床医師の補佐的な役割をなしており製品単体で治療に用いることはありません。また、12週間を超える使用への研究結果は報告されていないため使用は12週間にとどめる必要があります。
オピオイド使用障害(OUD)の治療状況について
全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)によると、FDAによって承認された3種のオピオイド使用障害治療薬は安全かつ効果的ではあるものの、本当に必要とする人々のものに行き渡っておらず特定のグループ間でアクセスが不公平になっていることが報告されています。原因としては、OUDを必要とする人々を助ける立場にある人々への教育が不十分であることがあげられています。
具体的には、アメリカでは刑事司法制度により収監されるOUD患者数は増えているものの、実情は治療がされないもしくは医療監督の下に禁断する場合に限られているといいます。このように、OUD患者で治療薬を必要としている患者が必要な治療を受けられないという、治療薬へのアクセシビリティの低さが現在直面している大きな課題となっています。
まとめ・日本への展開
麻薬性鎮痛剤であるオピオイドは現在世界の多くで処方されており、特に欧米では慢性非がん性疼痛に対するオピオイドの使用が増加しています。一方日本では欧米と比較してオピオイドの使用量は少なかったものの、2010年のフェニンタニル経皮吸収型製剤の発売を機にオピオイド使用量は増えており、さらに高齢化に伴うがん患者の増加も相まって今後OUD患者が増えていく可能性も十分に考えられます。
重度の場合では呼吸停止となり死亡につながるOUDですが、今後日本でもreSET-Oのようなオピオイド使用障害を治療するDTxが登場し普及していくのか、今後の動向に注目しましょう。